2009年10月3日土曜日

哲学する科学:心のウィルス、ミーム

『警告! この本にはマインド・ウィルスが潜んでいる。感染したくなければ、この先を読まないほうがいい。ウィルスに感染することにより、あなたの思考が多かれ少なかれ影響を受けるかもしれない。あるいは、あなたの現在の世界観が、がらりと変わってしまうことさえあるかもしれないのだ。』 ~リチャード・ブロディ

リチャード・ブロディ著「ミーム 心を操るウィルス」の冒頭の言葉です。

これはそっくりそのまま、このメルマガにも当てはまります。

しかしそれは特別なことではありません。私たちが何かを見たり聞いたりする時、私たちは多かれ少なかれ何らかの影響を受け、少しずつ変異しているのです。



ブロディは、ミームを以下のように定義しています。

『ミームとは、人間の行動を司るコード(プログラム)である。』

つまり、人間の脳はある種のコンピュータのようなものであり、プログラムを追加、変更することでその振る舞いが変わる、ということを言っていると理解できます。

そして、脳の振る舞いの変化は、脳によって制御される人間の振る舞いの変化であり、人間の集団である社会の変化を引き起こします。


『私たちが持っている基本的で根本的な仮説が変わるとき、パラダイムシフトが起きるという』 ~リチャード・ブロディ

ブロディは、ミーム理論が「私たちの生活と文化に対する見方を根本から変えてしまう力を持っている。」と示唆しています。そして、なぜわざわざ見方を変える必要があるのか、ということについて、≪地球は平面ではなく球である≫という考え方や、≪宇宙が地球の周りをまわっているのではない≫という考え方を例に出し、「新しい見方の方が納得がいくから」「世の中の動き方を説明するのによりよい理論であるから。」と説明しています。

彼はこうも言っています。

『ミームはあなたの人生を動かすことができ、現実に動かしている。おそらくは、あなたが気が付いているよりもはるかに大きく動かしている。』

そのようにミーム学が私たち人間にとって、よりよく世界を理解するための強力な理論となることを信じつつ、ミームの人間に対する影響力をとても重く見た彼が著書で最も伝えたかったのは、以下のような事柄でした。


『私たちは、私たち自身をプログラムするミームを自ら、意識的に、選択する必要がある。そうしなければ、ミームを熟知した一部の人間が設計した人工的なミームによって、思い通りにプログラムされてしまうかもしれない。』


…背筋が寒くなるような話ですね。

しかし私は、このブロディの見解には100%同意はできません。

ブロディの主張で引っかかるのは、「悪いミームが広がるのを食い止めるために、よいミームを広めよう」という部分です。いったい誰が、ミームの善し悪しを決めるというのでしょう?ブロディは彼の著書に書かれていることが「よいミーム」であり、人心を操作する「悪いミーム」を駆逐するために共に闘おう!と言っています。

ただ、ミームに関する知識を持つことで、心に取り入れるミームの選択に変化が起きることは確かであり、そういった意味で彼の著作(およびこのメルマガ)は大きな力を持っていると言っていいと思います。

ミームの振る舞いは確かにウィルスに似たところがありますが、ウィルスと違う点は、「それそのものが私たちの心を構成していると考えられる」という点です。
そして、地球という天体上の生態系において遺伝子たちが生き残りゲームを繰り広げているのと同じように、60億の人間の脳を舞台にミームたちがやはり「生き残ったものが勝者」というルールに従ってゲームを繰り広げている、という説明が、もっとも真実に近いのではないか、と私は考えます。


私はブロディの著書によってミームを知り、「パラダイムシフト」を経験しました。

しかしその数ヶ月後、スーザン・ブラックモアの「ミーム・マシーンとしての私」を読んで、私の世界観はさらに大きく転換することになります。

次号は、そのブラックモアの語るミーム論の世界にご案内いたします。


参考文献

ミーム ~心を操るウィルス
リチャード・ブロディ著
講談社刊

ミーム・マシーンとしての私
スーザン・ブラックモア著
草思社刊

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